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【料理アカデミー】食の科学「発酵」-講義編②カラダにいい調味料〜「発酵食品の不思議な世界」〜

食と住に深く関わる企業であるクリナップは、現代における“食の大切さや役割”を、皆さまと共に見つめ直すことが大切だと考え、生活研究部門である「おいしい暮らし研究所」が中心となり、聖徳大学さま、武庫川女子大学さまのご協力のもと「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」を企画、提供してまいりました。

この回は、食の科学「発酵」・講義編①「病気を防ぐ微生物の力」の続きとして掲載しています。講義編①でもさまざまな発酵食品をご紹介していますので、まだご覧になっていない方はぜひこちらも合わせてお読みください。

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<食の科学・発酵>講義編②
講師:松井 徳光(武庫川女子大学教授)
農学博士。日本テレビ系列「世界一受けたい授業」に出演。専攻は食品微生物学。特に、きのこの発酵能を用いた機能性食品の開発では世界の第一人者。
(平成25年10月 講座実施時)

発酵食品⑤【清酒】—酒は百薬の長

“日本がつくり上げたお酒”ということから日本酒ともいわれる清酒の原料は、お米です。お米に麹カビを生えさせた米麹をつくります。この米麹カビが出すアミラーゼでお米のデンプンを小さな糖にします。小さな糖になることで酵母が利用でき、アルコール発酵するのです。酵母を入れてアルコール発酵する前までの状態が甘酒です。甘酒は、時間が経つとだんだんアミラーゼが作用し糖化するので甘くなります。お米のデンプン自体は甘くはないのです。私も大学生でお金のないときに、おかずもなくご飯だけを口に入れて食べたことがありますが、噛んでいるうちに甘くなります。これは唾液の中にアミラーゼがあるからです。

酒は「百薬の長」「生命の水」といわれます。酒は人に感動を与え、不安や心の束縛を解放し、自由の天地をのぞかせる「情緒的栄養素」であります。【納豆】のところで「活性酸素」という単語が出ましたが、活性酸素が多くなるとガンや老化を促進してしまいます。現代人は、活性酸素が体の中でたくさん発生しています。その一番の原因はストレスだといわれています。ストレスを解消するという意味では、たしかにお酒というのは良いかもしれません。血行を促進するので、血栓症にもなりにくくなります。「百薬の長」とは、百個の薬の中の一番ではなくて、すべての中で一番であることを意味しています。

 

酒があるところには酢がある

「酢」という漢字が、“酒”から“作”る、を意味しているのはご存知でしたか? 実際に清酒から米酢が、ワインからワインビネガーが、ビールからモルトビネガーという酢がつくられます。ビネガーはラテン語で元々の意味は“酸っぱいもの”、それが原点です。酢は、人類が最初に手がけた調味料です。お酒があるところには酢があるといいます。お酒がなければ酢はできません。つまり、お酒の主成分であるエチルアルコールが酢酸菌の働きで空気中の酸素と結合し、酢酸発酵して酢酸をつくるわけです。酢酸菌は空気中にもいます。昔、お酒を放置すると酸っぱくなり捨てた人がいると思うのです。でも、誰かが、それが調味料として使えるということに気づいたから、酢というものが残ったのだと思います。

酢は人類が最初に手掛けた調味料ですが、人類が最初に手に入れた調味料は何かわかりますか? 塩です。では塩はどこから採ってきますか? こう尋ねて「海」と答えるのは日本人くらいです。ほかの国で尋ねると、山と答えます。オーストリアにザルツブルグというところがあり、私はドイツに留学していたときにそこへ行ってきました。ザルツブルグのザルツというのはドイツ語で塩です。ブルグは山。つまり、塩の山です。実際に山の中に入っていくと大きな洞穴が掘られていて、大きな岩のような岩塩がむき出しになっています。それを持ってきて、ある程度砕いたものが売られています。だから、日本みたいに細かい塩ではなく荒く砕かれたものになり、実際に使うときにはソルトミルなどで細かくします。

 

発酵食品⑥【酢】—酢酸とクエン酸の効果

酢は、米酢の場合、お米のまわりに麹カビを生やしデンプンを糖化させて小さな糖にしてからアルコール発酵させ(この段階で清酒)、それに酢酸菌を加えて酢酸発酵させて米酢をつくっています。酢には、血液をサラサラにする血液浄化作用があります。肉を食べた後は脂分が多く泥血になります。血管の中を血液がゆっくりと流れるようになります。こうなると糖尿病、高血圧、動脈硬化、ひいては血栓ができ、血栓症、心筋梗塞、脳血栓になりやすくなるわけです。ですが、酢があると、血液がサラサラになるので血流が良くなります。その結果、動脈硬化も起こりにくく、また心筋梗塞も脳血栓も起こりにくくなるわけです。

食酢の主成分は酢酸で、黒酢の主成分はクエン酸です。クエン酸も、酢酸と同様に非常に良い働きをします。酢に限らず、クエン酸が含まれている食べ物はたくさんあります。パイナップルやレモン、ミカン、オレンジなどの柑橘類、そしてもっともクエン酸が多く健康に良いといわれているのが、梅干しです。梅干しの酸味こそ、クエン酸の酸味です。試薬のクエン酸をそのまま舐めると、梅干しの酸っぱさがそのまま感じられます。梅干しが体に良い理由のひとつは、クエン酸が多いからです。発酵食品には、さまざまな疾病に対する予防効果があります。

 

江戸時代の書物から見つけられた“塩麹”

“塩麹”とは、米麹・塩・水の3つを混ぜて発酵、熟成させてつくる日本の伝統的な調味料です。江戸時代からつくられ、古くから野菜や魚の漬物床として利用されてきたと書物には書かれています。2011年後半頃から塩麹のさまざまな利用法ができ、人気が出て急に流行り出しましたが、それまでは、世間ではまったく知られていなかった調味料でした。

ブームの火付け役は大分県の糀屋本店の女将といわれています。いまひとつうまくいかなかった家業の起死回生の一手を探り、江戸時代の書物を見つけて読んでみたら塩麹なるものが載っていたのだそうです。麹づくりで300年以上の歴史を持つといわれる糀屋本店でしたが、書物を見るということがあまりなかったため塩麹に気付かなかったそうです。女将が塩麹に出会ったのが、2007年のことでした。試しに魚や野菜に絡めてみたところ、うまみが口いっぱいに広がり、簡単でおいしく、起死回生の調味料になるかもしれないという期待を抱き、塩麹レシピを考案しブログや本で公開しました。その結果、健康志向の人の間で口コミが広がり、ブームになったのです。

 

麹とは何か? 

塩麹のレシピをご紹介する前に、まず麹とは何かということを説明します。
たとえば、米麹は蒸米に麹カビの菌糸を生育させたものです。麹カビとはカビの一種で清酒、甘酒、焼酎、食酢、みりん、味噌、醤油など日本の伝統的な発酵食品に用いられている、日本を代表する発酵微生物のひとつです。白い状態からしばらくすると色がつきます。これは、菌糸の上に胞子というものが形成されるからです。普通の光学顕微鏡で見ると、菌糸、そしてその先に胞子があります。さらに胞子の部分を電子顕微鏡で見ると、胞子には突起がいくつもあり、その一つひとつが胞子、植物でいうと種のようなものとなります。この胞子に色がついているわけです。米麹は、実際に料理などで使うときには、この胞子がない状態、菌糸までの状態のものを使います。ですから、もし色がついているのであれば、それは少し培養しすぎだと思ってください。

 

米麹のつくり方

塩麹の前に米麹のつくり方を紹介します。
使用する容器は消毒、あるいは煮沸殺菌してほかの雑菌が汚染しないようにしてください。

❶お米を水で研ぎ、冬で大体12時間以上、暖かいときは少し短めに水に浸けます。その後、お米を蒸す2時間以上前から水切りをします。最低でも1時間前には水を切ってください。

❷水を切ったお米を蒸し器にセットして、芯が残らない状態まで蒸します。時間は30分から40分ほどです。

❸蒸し上がったお米は、少し固まっているのでほぐします。それから蒸米を広げてしゃもじで混ぜます。

❹蒸し米が40℃以下になったら、市販されている米麹を細かく粉砕したものを蒸米全体に混ぜ、30℃くらいで保温します。

❺朝晩、全体に麹カビの菌糸が生育できるように軽く混ぜます。2日か3日くらいで全体に白い色が出てきます。これで米麹のできあがりです。
黄色や緑色の胞子が形成されると培養しすぎです。

 

塩麹のつくり方

❶米麹に塩を加えます。分量は重量比で米麹:塩=3:1程度が基準です。
塩の濃度は好みに加減できますが、塩が少ないと調味機能や保存性が低下します。

❷次に、米麹をよくほぐして塩と混ぜ、全体になじませて塩切り麹というものをつくります。

❸煮沸したビンに②でつくった塩切り麹を入れて、水を加えて1週間から10日ほど室温で保存し発酵させます。一日一回空気に触れさせるように混ぜると、塩味に米麹の持つ甘さが加わって甘塩のような風味が出てきます。ですので、これを調理するものに漬けると、さらに旨味が出てくるのです。

【材料(例)】

米麹…150g
塩…50g(米麹に対して塩が3対1の割合)
水…塩切り麹がひたひたに浸る程度
※水は、水道水だと鉄などのいろいろなミネラルが加わり、また土地によって異なるので、市販されているミネラルウォーターがおすすめです。

 

塩麹が食物をおいしくする理由

さて、なぜ塩麹に漬けるとおいしくなるのか。麹カビにはアミラーゼやプロテアーゼをつくるという性質があります。塩麹の中には、そのアミラーゼ、プロテアーゼがたくさん含まれています。デンプン自体には甘みはないのですが、アミラーゼがあることでデンプンが分解されて、グルコースやマルトースのような小さな糖ができ、甘みが出ます。

プロテアーゼはタンパク質を分解するので、魚を漬けたときに魚のタンパク質がペプチドやアミノ酸という旨味の成分に変わります。だから旨味が出てくるのです。さらに塩は旨味を引き出し、また保存性の向上にもつながります。麹カビの生育も抑制します。塩は雑菌の生育も阻止し、ほかの菌も生育しにくくなります。そして、アミラーゼ、プロテアーゼの溶出を細胞原形質分離で促しているわけです。そういうわけで塩麹を使うとおいしく調理ができるということです。

 

[つづく]

『食の科学「発酵」-実習編「塩麹の活用レシピ」』を読む 

 

この記事は、平成25年に開講されたクリナップ寄付講座「キッチンから笑顔をつくる料理アカデミー」の内容をまとめたものです。

 

 

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